三人暮らし
父が亡くなったあと
母と始めた同居は
もう13年になっていました。
家には三人。
夫と、母と、私です。
二階建ての家で
二階にはそれぞれの部屋がありました。
食事のときだけ
一階のリビングに集まる。
そんな生活でした。
朝は、母がおかゆを作り
夫は青汁を作る。
私は果物をむいたり
風呂掃除をしたりしていました。
今思えば
静かな日常だったのかもしれません。

同居の最初の頃は
三人でドライブに出かけたりもしました。
うまくやっていこうと
みんな思っていたのだと思います。
けれど――
少しずつ
家の空気は重くなっていきました。
母も住み慣れた土地を離れ
家にこもりがちになっていきました。
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私が会社を辞めたのには
いくつか理由がありました。
長く関わってきた
研究開発のプロジェクトが終わったこと。
そしてもう一つは
残業の多い仕事を続けながら
年老いた母のケアをしていくことへの
不安でした。
でも
理由はそれだけではありませんでした。
母は
私の夫のことを
よく怒っていました。
「男なのになぜ仕事をしない」
その言葉を
何度も聞きました。
私自身も
その影響を受けていたのだと思います。
働く私と
家にいる夫。
体調の問題もあり
彼は仕事を離れて勉強を続けていました。
その形を
どこかでリセットしたくなっていた
のかもしれません。
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会社を辞めたあとも
私はセラピーの勉強を続けていました。
とはいえ、
すぐに収入になるわけではありません。
動けない日もありました。
途中からは
生活費を稼ぐために
実験のアルバイトをしながら
セラピーを続けていました。
その頃
食卓ではこんなことが起きていました。
食卓の沈黙
母は料理をたくさん作る人でした。
ほうれん草のお浸し
肉じゃが
卵豆腐
焼き魚
お漬物
お味噌汁
テーブルには
いつもたくさんの料理が並びました。

母はCOOPの宅配で
食材をたくさん頼みます。
冷蔵庫はいつもいっぱいでした。
その食材を使って
母は料理をするのです。
でも夫は言いました。
「多すぎる」
食べ過ぎると
体重が増えて
また母の足に負担がかかる。
母は両足とも
膝の関節の置換術を受けていました。
けれど、母は
夫の言葉に傷つき怒り
自分の部屋に戻ってしまうのです。
残されたのは
テーブルの料理と
気まずい沈黙でした。
私は母の部屋の前に立ち
ドアをノックしました。
「お母さん」
「ご飯どうする?」

中から返ってきたのは
「いらん」
「放っといて」
という声でした。
私は
ドアの前で立ち尽くしました。
それぞれの事情
夫もまた
不安を抱えていました。
結婚当初から
仕事は安定せず
何度か転職をしていました。
彼には書痙があり
喘息もありました。
そんな中で
職場の都合で仕事を失ったあと
彼はホメオパシーの勉強を
始めていました。
母には
それが理解できませんでした。
昔の価値観の人です。
夫が家で勉強をしていて
私が働いている状況が
どうしても
受け入れられなかったのです。
母の怒りは
「娘のため」--
そんな気持ちから
来ていたのだと思います。
でもその怒りは
私を真ん中に置いたまま
ぶつかり合いました。

限界
母の感情を受け止める役割は
ずっと続いていました。
ある日の夕方のことです。
母の話を聞いているうちに
私は限界を越えました。
もう無理。
布団を敷き
その中に潜り込みました。
避難するように。

母は慌てて
何度も声をかけてきました。
「どうしたんや?」
「大丈夫か?」
でも私は
心の中で思っていました。
――お願いだから
放っておいて。
板挟みの家
夫はそんな私を見て
心配し怒りました。
母が私に
感情をぶつけるのを
止めようとしたのです。
母は母で
夫が私に経済的に頼っていることを
許せませんでした。
そして私は
二人の間で
立ち尽くしていました。
誰も悪人ではありませんでした。
でも
誰も幸せではありませんでした。
あの家は
今思えば
板挟みの家でした。

今振り返ると、
あれは私と母の
「境界線」の問題だったのだと思います。
決定的な言葉
ある日
夫が静かに言いました。
「もう無理や」
「このままやったら
僕、病気になる」
その言葉を聞いたとき
私ははっとしました。
これはまずい。
本当に
何かが壊れてしまう。
そして彼は続けました。
「このままなら離婚して
僕がこの家を出ていく。」
脅しのようでもあり
でも
本気の言葉でした。
私はそのとき
気づいたのです。
これは
もう
限界なのかもしれない。

次回へ
私は少しずつ
母に言うようになりました。
「お母さんの感情は
お母さんが面倒を見てほしい」
母のことは大好きで
とても大切でした。
でも
私は私の人生を
生きたい。
そう思い始めていました。
けれど――
このあと
思いもよらない出来事が
起こります。
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