がんという経験を通して
私は見失っていた「感じる力」を
取り戻しました。
今回の記事では
心が再び動き出すまでの過程と
私がどのようにして、本当の自分の気持ちと
再会したのかをお話しします。
がんのあとも、“考える”ことで生きていた
がんと診断され、治療がひと段欄したあとも
私はしばらくの間、「考えること」や
「進めること」に一生懸命でした。
乳がん検査の開発という仕事に
再び打ち込み、恐怖や不安を感じる隙を
与えないようにしていたのだと思います。
職場には、乳がん患者のために
研究開発に力を尽くす仲間がいて
その存在も私にとって
大きな支えになっていました。
なにかに一心に打ち込んでいるあいだは
心の痛みや不安を感じずにすみます。
私は、そんなふうにして
内面の苦しさには“知らんふり”をしながら
「進めること」で生きていました。
アートセラピーで描いた作品。
川の中の石が知らんふりしていました。
これは当時の私の状況を
象徴的に表した作品だと思います。
専門家としての自分と、痛みを抱える人間としての自分
あるとき
乳がん学会に参加したときのことです。
会社から費用を出してもらい
勉強のために聴講していました。
講演会場は二階席もある大きなホールで
私はスーツを着て、二階席の最前列で
メモを取りながら聴いていました。
壇上には著名な先生方が並び
活発な討論が続いていました。
けれどその講演を聴くうちに、
心の奥がざわついてきたのです。
そして、胸の内でこんな叫びが
湧き上がりました。
「先生、私の気持ち、
わかってください――」
場違いな気持ちを抱えながらも、
それをどこにも出せない自分がいました。
“痛みを抱えた人間としての私”が、
静かに顔を出しはじめていました。
限界に達した心と、心理学との出会い
心の苦しさをなんとかしたくて
私はNLPという
実践心理学を学び始めました。
自分の心の痛みをうっすらと感じながらも
“役に立つことしかしない主義”の私は
「仕事のため」という理由をつけて
通い始めました。
けれど、セミナーに通ううちに、
押し込めていた感情が
静かにあふれ出してきたのです。
数か月たつ頃には
夜中にパカッと目が覚め、
頭を掻きむしって眠れない夜が続きました。
――もう、心は『限界』だったのだと思います。
心が辛かった時に
描いていた絵の1枚です。
タイトルは「どうか私に気づいて」
心のふたが開いたとき
これまで
「感じることよりも進めることが正しい」
と信じてきた私にとって
感情を見つめることは
想像以上に難しいことでした。
長年押し込めてきた感情たちに光があたり、
まるで沸騰寸前のヤカンに
無理やりフタをしたように
心がぐらぐらと揺れていました。
そんなとき、私は
「絵で気持ちを表す」ということを知りました。
眠れない夜、言葉にできない思いを
静かに色と形に変えていく――。
それは
心の奥とつながるための
小さな入り口であり、
私の心を支える時間になっていきました。
言葉にならなかった気持ちたち
こちらは当時描いた絵のひとつ
「血の雨が降る」
胸の奥に溜まっていた痛みが
ようやく形になった作品です。
次の作品のタイトルは
「私はどうすればよかった?」
長年抱え続け
解決できなかった心の叫びを表しています。
少し道化のような人物が描かれていて、
それは家族の中で
私が引き受けてきた役割の
象徴でもあります。
そしてもう一枚。
あるセッションを受けた後に描いた作品
「刺す」
そのセッション中
私の右手が左手を叩きはじめたのです。
私は“右と左の分裂”を抱えていました。
右側は
「進める」ことで生きてきた頑張り屋の自分。
左側は
痛みを感じてもう進めなくなっていた自分。
右の自分は
そんな左の自分を嫌っていました。
とても深い葛藤を抱えていたのです。
補足ですが
現在セラピストとして、多くの方の
セッションをしている中でも
同じように
“左右” “上半身と下半身” “前と後ろ”
の間で葛藤を抱えているケースに
よく出会います。
自分を責めたり、嫌ったりする気持ちは、
このように身体感覚としても現れます。
そして、両者が
お互いの存在を理解し、協力し始めると
苦しさや症状が和らいでいくことが
多いのです。
アートセラピーがくれたもの
アートセラピーを通して
私は言葉にならない内面を
「表現する」ことを知りました。
それは、これまでの私には
まったくなかった感覚でした。
“論理的に考えること”が
正解だと思っていた私にとって
「ただ感じる」「そのまま表す」ことは
大きな挑戦でした。
でも、そこにこそ、私の本当の
“人間らしい感情”がありました。
感情は
消したり押し込めたりするものではなく
丁寧に感じて受け止めることで
初めて癒えていくのだと思います。
描くことを通して、私はようやく――
“心との再会”を果たしました。
次回は
母との同居で押しつぶされそうだった毎日
というテーマでお届けします。お楽しみに
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